天神山緑地(てんじんやまりょくち)とは、北海道札幌市の平岸地区の標高85mの天神山にある自然豊かな緑地です。
北海道開拓初期の自然がそのまま残っているため、札幌という都市部に居ながら北海道の大自然を味わうことができ、観光地としてはもちろん地元札幌市民の憩いの場にもなっています。
天神山緑地の歴史
天神山緑地という地名の由来には、実は福岡にある太宰府天満宮が関係しています。
昔、天神山の所有者だった福岡出身の南部源蔵さんという方が、1903年に地元の太宰府天満宮から天神様の分霊を奉還してこの山に祀ったことから「天神山」と名付けられました。
ちなみにこの南部源蔵さんの三男にあたるのが、1904年のロサンゼルスオリンピック陸上男子三段跳で世界記録を更新し金メダルを獲得した南部忠平さんです。
分霊を祀った翌年に息子さんがオリンピックで金メダルを獲得するとは、まさに天神様のご加護があったからなのかもしれません。
天神山緑地はさっぽろ文庫『札幌の山々』に掲載されている「札幌50峰」の中で最も低い山であり、千歳市にある支笏湖(しこつこ)のもととなった支笏火山の噴火による堆積物からできていると言います。
緑地内には日本庭園や札幌市内を望める展望広場があり、2014年には頂上付近に「さっぽろ天神山アートスタジオ」が建てられるなど、今では子供から大人まで楽しむことができる憩いの場になっています。
四季折々の姿を楽しめる日本庭園
天神山緑地には平岸地区の開墾120周年を記念して1990年に日本庭園が造られています。
庭園の中に池がある池泉庭園(ちせんていえん)で、池には巨石でできた豪華な滝石組が備えられています。
夏は涼しげな池と緑豊かな自然を楽しめる日本庭園ですが、冬は池に水が張られていないため、冬の間のみ池の中を泳いでいるような亀の形をした中島を見ることができます。
札幌の街並みを眺望できる展望広場
展望広場は見晴らしがよく、標高は高くないものの、札幌中心部の街並みを眺望することができます。
さらに天気が良ければ札幌市のほぼ中央に位置する「藻岩山(もいわやま)」やそのもっと奥の「手稲山(ていねやま)」も眺めることができます。
札幌という都市部にあることを忘れてしまうほどの大自然の中で、のんびりとした時間を過ごすことができます。
運が良ければ野生のキタキツネやエゾリスにも会うことができるそうですよ。
天神山の憩いの場「さっぽろ天神山アートスタジオ」
さっぽろ天神山アートスタジオは、2014年に札幌市の宿泊施設であった「旧札幌天神山国際ハウス」を修繕し、国内外のアーティストが滞在することができる文化芸術施設として誕生しました。
新型コロナウィルスの影響で海外拠点のアーティストの滞在を一時中止していましたが、2022年6月からは再開されており、アーティストの方との国際的な芸術交流も可能になっています。
スタジオ内1階のロビーや交流サロンは天神山緑地の無料休憩所として常時開放されています。
交流サロンには札幌や北海道に関する書籍から子ども向けの本やおもちゃ・楽器などまで幅広く備えられており、一般市民の方や観光客の方も気軽に足を運ぶことができるため天神山緑地散策の休憩などにもぴったりです。
石川啄木の「札幌平岸林檎園記念歌碑」
天神山緑地のある平岸地区は明治時代には「平岸リンゴ」として全国にその名をはせるほどのりんごの名産地でした。
昭和に入ると平岸地区の札幌のベッドタウン化が進み、徐々に果樹園が減少していきました。
現在ではリンゴ園はほとんど残っておらず、平岸地区は一大住宅地として発展を遂げています。
そのように、かつてリンゴの名産地として賑わった平岸地区への想いを馳せた記念碑が、天神山緑地に建てられています。
記念碑には「札幌平岸林檎園記念歌碑」として石川啄木が『一握の砂』の中で詠んだ以下の短歌が刻まれています。
「石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ」
石川啄木と平岸地区は直接は関係ありませんが、この短歌は啄木が函館で小学校教員をしていた頃、同僚で札幌出身の橘智恵子という女性を想って詠んだ歌だそうです。
天神山緑地の見どころ
そんな天神山緑地ですが、見どころは春の花見と秋の紅葉です。
平岸開墾120年を記念して日本庭園と同じ時期に、ヤエザクラやソメイヨシノ、エゾヤマザクラなど300本を超える桜が植えられました。
様々な種類の桜があるため、種類ごとに開花時期が異なり、天神山緑地の桜の見ごろは4月下旬から5月末ごろとやや長めに楽しむことができます。
また、桜林のすぐそばには梅林もあり、そこには100本を超える梅が植えられています。
本州では梅の開花時期は2月ごろですが、冬の長い北海道札幌では5月上旬となっており、桜の見ごろと重なります。
そのため、春の天神山緑地では桜と梅の花見を一緒に楽しむこともできます。
春に緑地内を訪れた人の中には「桜を見ていたらいつの間にか梅を見ていた」という人もいるほどです。
緩やかな傾斜の小山なので、ご高齢の方やお子様連れのご家族も、気軽に春の花見を楽しむことができるでしょう。
また、秋の天神山緑地は紅葉も見どころの1つです。
通常の紅葉といえばもみじやイチョウのイメージが強いですが、ここではそれらだけではなく、ツタの葉やイチイ・スズラン・ヤマシャクヤクの実など、様々な植物が紅に染まるのも楽しむことができます。
都心からそう遠くない場所で、開墾初期の豊かな自然と共に秋の紅葉を楽しんでみるのもまた一興ですね。
天神山緑地 付近のおすすめ観光スポット
続いては天神山緑地に隣接するおすすめの観光スポットを2つご紹介します。
北海道最古の藤棚「天神藤」
天神山緑地と隣接して、5月下旬から6月上旬にかけて満開に咲き誇る「天神藤(てんじんふじ)」が鑑賞できます。
藤(フジ)とは紫色や薄紫色に羽を広げた蝶のような形の花を多数つけ、花の良い香りも楽しめるマメ科・落葉つる植物です。
日本古来の花木で古くから観賞用として親しまれてきましたが、北海道や沖縄では自生していません。
そのため、天神山にあるこの藤は明治時代に開拓民が盆栽として持ってきたものをこの地に植えた、樹齢200年を越える「北海道最古の藤」と言われています。
1969年に当時の札幌市長が緑地を訪れた際にこの藤を目にし、天神山にちなんで「天神藤」と名づけました。
天神藤は元々は個人の所有する敷地内にあり、その方のご厚意で藤の季節だけ一般の方に解放されていましたが、最近になり札幌市に寄贈され天神山緑地の一部となりました。
2m近くある太くしっかりとした幹に支えられた25m四方にも及ぶ大きな藤棚が、季節になると一面きれいな薄紫色に染まります。
本州から盆栽として持ち込まれた藤が、200年の月日を経てこれほどの大きさに成長するのですから驚きですよね。
藤棚を真下から見るのはもちろん、天神藤の少し先にある小高い日本庭園からは斜め上から藤の花のしだれを眺めることができ、また違った景色を楽しめます。
さらに、藤が見ごろを迎える時期には、日本庭園にあるヤマツツジやエゾムラサキツツジなども同じく見ごろを迎えるため、庭園は赤やオレンジ、薄紫と色とりどりでとても鮮やかな姿を見せてくれます。
優しい薄紫色の花と、うっとりするような華やかで甘い香りを漂わせ、日本人の心を和ませる北海道最古の藤「天神藤」、春に天神山緑地を訪れた際はぜひ立ち寄って頂きたいスポットです。
古代からのパワースポット「相馬神社」
相馬神社(そうまじんじゃ)は天神山緑地に隣接する神社の一つ。
明治時代に建てられた神社ですが、その前から北海道の原住民族アイヌの祭礼などが行われていた聖地であり、古代から信仰の場所となっているパワースポットです。
毎年9月の第1土曜日・第1日曜日の2日間にわたって例大祭が開かれ、両日とも相馬神社の参道の両端に屋台が出て賑わいます。
相馬神社は、明治初期に仙台藩領からの入植者によって札幌神社の遥拝所(遠く離れたところから神を拝めるために設けられた場所)としてこの地で祭事が執行されたことが起源で、1902年に福島県相馬市の相馬太田神社から分霊を奉還したことで「相馬神社」と呼ばれるようになりました。
相馬神社の御祭神は宇宙の中心とされている日本最古の神様「天之御中主大神(あめのみなかぬしのおおかみ)」です。
日本のすべての神様はこの天之御中主大神から始まっているとされ、相馬神社は安産や恋愛、開運や仕事運などすべてにご利益があると言われています。
神社の前の坂はやや急な勾配になっており、鳥居の手前には、開拓時代に重要な役割を果たしてくれた農耕馬の魂を祀るための「馬頭観音菩薩」と「馬頭碑」が建てられています。
馬のために石碑を作るほど、当時の開拓民にとって馬は重要な存在であり、苦労を共にする仲間だったのでしょう。
鳥居の先には樹齢300年以上と言われている見事なシバグリが佇んでおり、御神木として参拝者を迎えてくれます。
そのシバグリの直径は121㎝、高さは15mもあり、今では札幌市保存樹林に指定されています。
アイヌ時代からその地で祭事を見守ってきたシバグリの大樹を一目見てみたいという方も多いことでしょう。
古来からの神聖な雰囲気が漂う相馬神社も天神山緑地を訪れた際にはぜひ参拝して頂きたいパワースポットです。
天神山緑地へのアクセス方法
最後に天神山緑地へのアクセス方法をご紹介します。
天神山緑地のアクセス情報は以下の通りです。
- 住所:〒062-0931 北海道札幌市豊平区平岸1条18丁目
- 電話番号:011-851-1681(豊平区土木センター)
- 電話番号:011-820-2140(さっぽろ天神山アートスタジオ)
- 定休日:無し(さっぽろ天神山アートスタジオは月曜日と年末年始が定休日)
- 入場料:無し
- 無料駐車場:25台
天神山緑地へは地下鉄か車でのアクセスが便利です。
地下鉄は地下鉄南北線「澄川駅」または「南平岸駅」から1kmほどで徒歩約15分になります。
相馬神社の裏側からも緑地内に入ることができ、そのルートでは澄川駅から徒歩10分ほどで到着します。
車では札幌駅から支笏湖方面へ15分ほど南下した国道453号線沿いにあります。
道路に標識がでており、駐車場もあるので迷うことはありません。
また、ゴールデンウイークから藤の季節にかけては来園される方が増えるため、通常の駐車場のほかに臨時駐車場が設けられます。
札幌からほど近く、春には桜や藤、秋には紅葉など豊かな自然が楽しめ、文化芸術にも触れることができる天神山緑地。
北海道に訪れた際には、少し足を延ばしてご家族やカップルで訪れてみてはいかがでしょうか。